課題曲にまとわりつくコンテクスト「熟練度」のこと:

平日夜に府中くんだりまで、満員の通勤ラッシュをぬって行ったのは、実演で課題曲ばかり15曲もやるという、そのプログラミングを見てしまって、いてもたってもいられなくなったから。
実際のところ最寄駅は東府中駅で、駅からも歩いてさほど距離はありません(公称「徒歩7分」)。三鷹の南口(武蔵野文化会館)、もしくは北口(三鷹市芸術文化センター)へ延々あるくよりは、よほど足に優しいホールです。

府中の森芸術劇場ウィーンホールは、東京都の吹奏楽愛好家にとってはひとつの大舞台。プロフィール写真をこのホールで撮っているところを見ると、ハーツ・ウインズの拠点と見てよろしいのでしょうか。

ハーツ・ウインズは2007年発足の若いプロフェッショナル吹奏楽団で、近年は録音にも力をいれており、アルメニアン・ダンス等を収録したディスク(WILIAMS & ALFRED REED「本当のアルメニアンダンスを求めて」)が雑誌「レコード芸術」にて特選に選ばれるなど、評価もある程度定まってきたと言えるでしょう。
(どうでもいいのですが、近年のあたらしい吹奏楽団の中では、突出して名前が覚えやすいとおもいました。非常に短く、端的で。)

今回の定期演奏会のポイントは2点。
その1:当日の演奏曲目がすべて、全日本吹奏楽コンクールの課題曲で構成されている
その2:ゲストに作曲家の中橋愛生氏を迎え、氏の深い考察や知識に裏打ちされた解説を聴ける
ちなみに、全曲目を年代順に並べ替えたのが以下。

1986-B 兼田敏/嗚呼!
1991-B 真島俊夫/コーラル・ブルー《沖縄民謡「谷茶前」の主題による交響的印象≫
1993-Ⅱ 小長谷宗一/スター・パズル・マーチ
1993-Ⅳ 矢部政男/マーチ・エイプリル・メイ
1994-Ⅰ 間宮芳生/ベリーを摘んだらダンスにしよう
1994-Ⅲ 田村文生/饗応夫人(太宰治作「饗応夫人」のための音楽)
1995-Ⅰ 阿部勇一/行進曲「ラメセス2世」
1996-Ⅰ 伊藤康英/管楽器のためのソナタ
1998-Ⅰ 松尾善雄/童夢
1999-Ⅳ 高橋伸哉/行進曲「K点を越えて」
2002-Ⅲ 原 博/ミニシンフォニー 変ホ長調
2004-Ⅲ 北爪道夫/祈りの旅
2003-Ⅴ 川村昌樹/マーチ「列車で行こう」
2013-Ⅲ 岩井直溥/復興への序曲「夢の明日に」
2015-Ⅲ 西村朗/秘儀Ⅲ
こうしてみると、1990年代がちょっと多めかもしれません。しかしそれは、この時代の課題曲がどれもこれも優れた作品だからこそ、なのかもしれません。

プログラミングに関しては、課題曲のみというだけでなく、1部から3部までそれぞれが独立した構成として楽しむこともできる選曲。
周囲のお客さんが「3部まできてマーチかあ。。きついかも」とおっしゃっていたのが聞こえましたが、聴き終わったあとの客席の反応を見るに、その心配は杞憂だったといえるでしょう。

また、中橋氏のトークはのっけから絶好調で、しばしばフランクすぎるその語り口に聴衆から何度も大きな笑いがあがっていました。「ストライク・アップ・ザ・バンド!」(※中橋氏がずっとパーソナリティをしているNHKラジオ番組「吹奏楽のひびき」での決めぜりふ)は2回も3回もやってくださるし、興がのりすぎてたくさんお話になった挙句終演は遅れるし・・・
まさに「絶(舌)好調」でありました。

今回事前にプログラムを見て楽しみにしていたのは、2004-Ⅲ番=北爪道夫《祈りの旅》と、2003-Ⅴ番=川村昌樹《マーチ「列車で行こう」》でした。
ただこの「列車で行こう」や、第1部の1996-Ⅰ番《管楽器のためのソナタ》では、思いがけずアンサンブルの乱れを目の当たりにすることとなり、少々戸惑いを覚えたのも事実でした。のちに指揮者のトークで判明したのは、今回のコンサートが完全にプロ的な練習の方法・・・要は「練習3回で本番」で今日の日を迎えたということ。これで、腑におちました。

当たり前なのですが、これら「課題曲」は通常、半年程度の長いスパンで練習され、練りに練り上げられた状態で聴衆のまえに披露されるもの。しかし今回の演奏では、そうした「つくりこみ」を行う余地はなかったのです。
多少難のあるコードをそぐうように調整したり、思い入れでカバーしたりという行為ができないことで、作品のもともと持っているクオリティが露呈したのではないか、とも感じたりして。
そう、課題曲があんなに素晴らしく聴こえるのは、その一瞬に懸ける練り上げられた密度の濃さゆえなのではないか・・・プロの流儀でつくられた演奏(もちろんこれはこれで良い演奏)との違いを聴くことができて、そんなことを考えました。作り込むことを前提としているというのは、一般的な音楽作品全般を見てもそうは無い要素なのかもしれません。で、どちらが良いとも言えません。
そういう「つくりこみ」を取り払った状態の課題曲をまとめて聴くことができたのが、今回の演奏会をききにいった最大のおみやげだなあと感じました。

どの作品も一通りは聴いていたのですが、予期せぬ嬉しき再会も。兼田敏《嗚呼!》や西村朗《秘儀Ⅲ》は、そうだ、これ、もの凄い曲だったんだ! と改めて確認させられるような好演。中でも髙橋伸哉《行進曲「K点を越えて」》は、これほど完成度が高かったとは、、、と、密かに圧倒されておりました。現役の頃に会場で散々聴いたはずなのに、離れてみないと判らないことも多いものですね。
今でこそ《K点》を下敷きにしたような課題曲マーチがたくさん出回っておりますが、洗練された対旋律や、生き生きときらめく要素の組み合わせを聴けたのはありがたい限り。これだけでも、遠征してきた甲斐があったというものです。(個人的には初めて演奏した課題曲が《童夢》だったので、ちょっとだけ期待していたのですが・・・どことなく物足りなさが残ったのは、演奏のせいではないように、思いました。)

吹奏楽の作品は、コンクールという土壌から切り離してもりっぱに通用するものに育ったのだ、という思いを常々抱いていましたが、今回の演奏会でその確信を得られたように思います。吹奏楽をオーケストラと同じように愛聴してくれるひとを増やすためのきっかけは、このあたりにありそうな気がしています。
ちなみにアンコールは真島俊夫《五月の風》と、まさにしっぽの先まで課題曲が詰まった一夜でありました。人気の企画ということなので、次回はぜひとも土日のマチネでの再演を願っております。
第1回大会からの課題曲一覧をまとめたWebページがありましたので、気になった方はこちらからどうぞ→http://www.ajba.or.jp/oita/kadaikyoku.html


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